助成金とは何?補助金との違いは何?~今さら聞けない疑問~
この記事の目次
一番多い質問
公的資金活用のご相談でいちばん多い質問。
それが、「助成金と補助金って、どう違うんですか?」というものです。
(「わかってるよ」という人は読み飛ばしてください)
そして、説明を受けてアタマでわかったつもりでも、
最初に助成金という言葉がアタマに入ってしまった人は、ずっと助成金と言い続けるし、
同じように補助金と言う人は、ずっと補助金と言い続けるので、
「補助金に興味がある人がいるんですが・・・」
「助成金について知りたい人がいるんですが・・・」
と言われたときに、果たして、内容を理解した上で、意図して補助金、意図して助成金と
コトバが使い分けられているかどうか、よくわからないことがほとんなのです。
なので、そうしたときには、
「その方は、何のために、どんな使途で、補助金(助成金)に関心をお持ちですか?」
と尋ねることにしています。
その答えによって、だいたい、どのような受け答えをや支援をすればよいかの見当がつくからです。
では早速、5つの観点から要点を整理してみましょう。
助成金と補助金の違い
お金の性質(給付金)
実は、補助金とは何か、助成金とは何か、という厳密な定義はありません。
実務上は、「国や地方公共団体から給付されるお金」、と理解しておけばよいでしょう。
助成金も補助金も、国や地方公共団体から給付されるお金、いわゆる「もらえる」※という点では変わりません。
よく「融資と違って返す必要のないお金」と言われますが、その点でも共通です。
※難しく言うと「相当の反対給付を受けない給付金」ということになります。法律的に詳しい解釈にご関心のある向きは、たとえばこちらの資料を参照するとよいでしょう。
企業での活用という範囲に限定して考える場合には、
- 助成金:厚生労働省が所管する、事業主向け雇用関係助成金
- 補助金:中小企業庁等が所管する、設備投資、新規事業、販路開拓等を後押しする補助金(典型的には、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者補助金)
と押さえておけばよいでしょう(以下、本稿では、上記の定義で補助金、助成金という言葉を使っていきます)。
ただ、たとえば東京都の場合は、上記いずれについても「助成金」と呼んでいるので、ややこしいことになります。
国・地方公共団体でも厳密な言葉の使い分けをしているわけではないので、わかりづらくなっている面も否定できないですね。
お金の出元(原資)
補助金、助成金のお金の出元、すなわち原資は公金です。
ただし、
- 補助金の原資は税金(国の補助金なら国税、地方公共団体の補助金なら地方税)
- 助成金の場合は雇用保険料
という違いがあります。
公金というと、国や地方公共団体の持っているお金のようなイメージですが、
元をたどれば、善良な納税者、善良な雇用保険加入者が納めたお金です。
ですから、税金の滞納があれば補助金は受けられないし、雇用保険に適正加入していなければ助成金は受けられないのです。
そこで、わかりやすさを重視して表現すれば、
- 補助金は善良なる納税者の互助会
- 助成金は善良なる雇用保険加入者の互助会
のようなもの、となります。
ただ、お金を集めて分配する機能は、互助会のメンバーではなく、国や地方公共団体が担う形になっているのです。
下の図でいうと、「雇用保険」から上に向かうと「失業等給付」で、これは、退職した労働者が受給するお金です。
一方、下に向かうと、「雇用保険二事業」というものがあり、この中に、事業主が受給する助成金が位置づけられています。
お金の目的
補助金の場合は、産業振興や省エネルギーなどの公益目的を達成するのに必要な事務・事業を支援するのが目的です。
一方、助成金の場合は、その助成目的は、おおむね次の5通りとなります。
- 人を雇う→雇用を増やす
- 人を育てる→能力を開発する
- 労働環境・職場環境を改善する→働きやすくする
- 処遇を改善する→給与・賞与等を増やす
- 人を定着させる→雇用期間を長くする(離職を防止する)
要するに、より多くの労働者が、より良い処遇を得て、より安定して働く(定着)することに役立つ取組をした事業主に、ご褒美として給付されるのが助成金です。
なぜご褒美かと言えば、原資である
- 雇用保険料=被保険者者数×雇用保険料(給与・賞与×一定の%)
ですから、被保険者者数と雇用保険料が増えて、保険制度の財政が安定するからです。
お金の使い道(使途)
補助金の場合は、補助制度の趣旨に沿った事業計画を申請し、採択されたら、その計画に沿って設備を導入する等の事業を行います。
よく、「補助金は使い道が限定されているから使いづらい」と言う方がいますが、それは誤解で、自分で決めた使途に計画通りに使うのが本筋です。
ただ、補助対象として認められる「費目」には制限があり、何でもかんでも補助金で、というわけにはいかないのも事実です。
人件費や家賃などの固定費は、創業支援の場合を除き、対象にならない場合がほとんです。一番欲しいところではありますが、そこを補助金に頼っている企業は、そもそも財政的に自立できていないことになってしまいますね。
一方、助成金の場合は、教育訓練のための研修費用や、分煙設備の設置費用などの「直接経費」を補助する目的で給付される場合と、制度導入や賃上げなど助成の目的に合致する「取組」を行ったことに対して給付される場合があります。
後者の場合、給付された助成金の使途については制限がないので、
- 福利厚生の向上に充てる
- 労働環境整備に充てる
- 設備投資に充てる
- 採用教育費に充てる
- 等々
の使い方を事業主が工夫して行うことになります。
お金の扱い(雑収入)
補助金も助成金も、損益計算書上、雑収入として営業外収益に勘定されます。
したがって、給付を受けた期の経常利益の増加に貢献することになります。
ただし、本業の実力外の利益が増えるので、これを相殺する営業赤字、営業外損失、特別損失がなく、そのまま決算してしまうと、給付した補助金や助成金がまるまる課税対象となり、3割程度を法人税等として納税することになります。
受給はうれしいのですが、納税も増えて、思ったほどキャッシュが残らないことになってしまいます。
数十万円の受給であれば目立たなくても、数百万円・数千万円の受給となると、あらかじめ決算対策を想定しておくのは、キャッシュフロー上、資金繰り上、必須です。
補助金や助成金についてアドバイスや支援を受ける場合、ここまで目配りした対応・提案をしてもらえるのか、そうでないのかで、最終的な果実は大きく変わってしまいます。
事業主向け雇用関係助成金
全体像をつかむには
さて本題です。「雇用関係助成金」と検索すると、厚生労働省のHPが出てきます。
たくさんの助成制度があるので、初めての場合はどこから見たらよいのかもわからないくらいですが、
助成制度の検索チャートのページが、全体像をつかむのにちょうどよいでしょう。
- 助成の目的
- 助成の対象となる取組
- 受給に必要な要件(ある場合)
- 該当する助成制度
で、自社に必要そうな助成金はどれかを探すことができます。
貴社で行おうとしていることに適合する給付金(助成金)を簡単に検索することができます。
と書いてはあるのですが、、、1つひとつの「用語」に、詳細かつ専門的な定義が付随しているので、これだけで正確に読み解くのは至難の業です。
当たりがつけられれば良し、そうでない場合は、顧問や知り合いの社会保険労務士さんに聞いてみるのがよいでしょう。
共通要件は最低限知っておく
助成金を受給するには、
- 共通要件
- 制度ごとに要求される個別要件
の両方をクリアする必要があります。
差し当って、入り口で重要なのは「共通要件」です。これがクリアできなければ、受給できる助成金は1つもないからです。
受給できる事業主
基本中の基本は、「雇用保険適用事業所の事業主であること」。
つまり、雇用保険に加入していることがスタートです。
未加入の場合は、加入することでスタートが切れます。審査への協力、期間内の申請は当然のことですね。
1 雇用保険適用事業所の事業主であること
2 支給のための審査に協力すること
(1)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
(2)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
(3)管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
3 申請期間内に申請を行うこと
受給できない事業主
業種・事業内容を問わず、不正受給、労働保険料未納、労働関係法令違反、暴力と、コンプライアンス(法令遵守)や公序良俗に反する企業は助成金を受給できません。当たり前といえば当たり前。
業種・事業内容については、「性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業」は受給できません(細かな例外規定等がありますが、ここでは割愛します)。
1 不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主、あるいは支給申請日後、支給決定日までの間に不正受給をした事業主
2 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く)
3 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
4 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主
5 事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合
6 事業主又は事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体に属している場合
7 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
8 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主
不正受給とは、「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けまたは受けようとすることを指します。例えば、離職理由に虚偽がある場合(実際は事業主都合であるにもかかわらず自己都合であるなど)も不正受給に当たります。」ということで、注意していると、不正受給の報道が月々、行われていることに気づきます。
不正受給をした事業主は公表されるので、信用は地に落ちてしまいます。
労働関係法令の遵守
善良なる雇用保険加入者であれば、基本的には受給できない事業主になることはないでしょう。
しかし、要注意なのは労働関係法令の違反です。とくに昨今は、
- 長時間労働
- 時間外労働賃金(残業代)の未払い
- 最低賃金(時間給換算)のクリア
が重要なチェックポイントです。
ここだけは、日々の労務管理の積み重ねの結果ですから、一朝一夕で違反状態を改善するのは容易ではありません(そうできるくらいなら、違反状態になっていないはずです)。
助成金の予算規模
去年は去年、今年は今年、来年は来年
助成金の予算規模もメニューは、年々、少しずつ変わります。
同じ名称の助成金でも、受給要件が変わることもあります。
本稿を書いているのが2018年1月中旬ですが、平成29年度の制度で助成金を活用しようとするなら、要件の確認や必要書類の整備・作成に数週間は要するので、着手するのかしないのか、最終判断するタイミングです。
29年度のメニューは、助成制度の検索チャートのページで確認してください。
30年度の予算規模は大幅増
「雇用保険二事業について」という、そっけない見出しの資料が、毎年厚生労働省から出されています。
最新版は、2017年12月8日付の30年度予算案が記載されているものです。
この「雇用保険二事業」の中に、各種の事業主向け雇用関係助成金が含まれているのです。
年末年始あたりから、来年度の助成金についての観測情報が出回り始めますが、その元資料ということになります。
情報収集は、何事も、原典に当たるのが最良。
全体の予算規模の推移を見てみると次のとおりです。
29年度予算に比べて、30年度予算案では777億円、14.8%の大幅増が計画されています。
- 平成27年度予算:5099億円
- 平成28年度予算:4801億円(▲298億円、▲5.8%)
- 平成29年度予算:5252億円(+451億円、+9.4%)
- 平成30年度予算案:6028億円(+777億円、+14.8%)
ラッキーナンバーのスリーセブンですから、何やらラッキーな雰囲気がしますね。
個別具体的な助成メニューについては、別稿をご覧ください。
関連記事▶ 2018年の助成金はどうなる? 中小企業向け雇用関係助成金の動向
まとめ
助成金活用にあたっての基礎知識が頭に入ったら、次は自社で活用できるかどうかが気になりますね。
この分野の専門家は社労士さんです。顧問や知り合いの社労士さんに聞いてみてください。
身近に思い当たらない場合は、顧問の税理士さんに頼めば、信頼できる方を紹介していただけるでしょう。