経営力向上計画の認定を受けるには?③別紙:経営力向上計画の内容を書く
この記事の目次
経営力向上計画の記載は8項目
少々長くなりますが、まとめて同じ記事で見られた方が便利だと思いますので、一気に解説していきます。
勉強のためにアタマから全部読んでいただいても、自社の申請書作成上、わからないところだけ読んでいただいてもかまいません。
名称等
「1.名称等」の項に記載するのは、以下の5点です。
- 事業者の氏名又は名称
- 代表者名(事業者が法人の場合)
- 資本金又は出資の額
- 常時使用する従業員の数
- 法人番号
事業者の氏名又は名称、代表者名
「事業者の氏名又は名称」、「代表者名」は、様式1の鑑と一致するように記載すればOKですね。
個人事業主は、事業者の氏名を記載しますから、代表者名は記載しません。
資本金又は出資の額
「資本金又は出資の額」については、中小企業者の定義(中小ものづくり高度化法 逐条解説)の用語解説において、次のように説明されているので、これに基づいて考えればよいでしょう。個人事業主の場合は空欄ですね。
資本金の額又は出資の総額:資本金の額とは、株式会社における払込済資本の額を、出資の総額は、合名会社、合資会社又は合同会社の出資の総額をいうものである。
常時使用する従業員の数
「常時使用する従業員の数」については、中小企業等経営強化法 経営力向上計画に関するQ&A集の中で、次のように説明されています。
労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」を従業員と解しています。
よって、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、非正規社員及び出向者については、当該条文をもとに個別に判断します(参考を御覧下さい。)。
また、会社役員及び個人事業主は予め解雇の予告を必要とする者に該当しないので、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」には該当しません。
まず、法人の役員、個人事業主本人は「常時使用する従業員」に含まないということは明確ですね。
パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、非正規社員及び出向者については、労働基準法を見て判断しろ、ということなんですが、なかなか見る機会はないですね。で、「参考を御覧下さい」の参考は何かというと、労働基準法第20条・第21条です。
【参考】労働基準法(昭和22年法律第49号)
(解雇の予告)
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。第21条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
但し、第1号に該当する者が1箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を
超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 2箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
要するに、日雇い、2または4ヶ月以内の短期契約、試用期間の場合といった臨時雇用の方は、「常時使用する従業員」に含まない、ということになるでしょう。
で、「正社員」とか「正規雇用労働者」といった表現はどこにも出てきませんが、役員・個人事業主でも、臨時雇用でもないので、当然、「常時使用する従業員」に含まれることになります。
法人番号
「法人番号」については、国税庁から送られてきた「法人番号指定通知書」を見るか、もしくは国税庁の法人番号公表サイトで、自社の所在地や社名を入れて検索することで確認できます。13桁なので、多すぎたり少なすぎたりしないよう正確に転記しましょう。
個人事業主は、法人番号はありませんから、空欄です。
事業分野と事業分野別指針名
「2.事業分野と事業分野別指針名」の項に記載するのは、以下の2点です。
- 事業分野
- 事業分野別指針名
事業分野
「事業分野」については、日本標準産業分類の中分類と細分類コードと項目名を記入します。
と言われても、「日本標準産業分類」とは何ぞや?という疑問をお持ちになる方も少なくないでしょう。
役所のマニュアルやガイドブック、記入例などには、こうした、知っていて当然のことのように書いてある専門用語がけっこうたくさん出てきて、いちいち、そこで引っかかってしまうのが難点ですね。
「日本標準産業分類」は、日本中の産業を何から何まで分類して番号をつけたもので、政府の統計で使用されます。製造業や建設業と言われれば聞きなれた言葉だと思いますが、実はいずれも「日本標準産業分類」の大分類の名称なんです。
で、自分の事業は何業に分類されるのか、総務省の検索ページで検索することができます。
製造業を例にとると、まず、大分類=E:製造業となります。
製造業には24種類の中分類があります。たとえば、自社が加工食品を製造しているならば、中分類は「09 食料品製造業 」となります。「09」というのは分類コードで、この番号と中分類の業種名を記載する必要があります。
さらに、食料品製造業には10種類の細分類があります。仮に、製品がハム・ソーセージ類ならば、細分類は「0912 肉加工品製造業」となります。
「なかなかうちの会社にピッタリはまる細分類にたどりつけないよ」という場合は、キーワード検索で「ハム」と入力し検索をかければ、候補が上がってきます。
まとめると、ハム工場だとすれば、事業分野の項には、
09 食料品製造業
0912 肉加工品製造業
と記入することになります。
事業分野別指針名
「事業分野別指針名」については、中小企業庁のHPに一覧がありますので、そこから自社の業種に当てはまるものがないか探します。
本稿作成時点では、次の17分野について指針が定められています。さきほどに引き続き、ハム工場の例でいえば、「製造業に係る経営力向上に関する指針」が該当するので、これを記載します。
製造業
卸・小売業
外食・中食
旅館業
医療
保育
介護
障害福祉
貨物自動車運送業
船舶産業
自動車整備
建設業
有線テレビジョン放送業
電気通信
不動産業
地上基幹放送分野
石油卸売業・燃料小売業
ちなみに、「事業分野別指針」とは何かというと、「事業分野を所管する省庁において、事業分野ごとに生産性向上の方法等を示した」文書です。
経営力向上を図る期間と目標値の選び方を「経営力向上の実施方法に関する事項」として、各社の取組メニューの見出しを「経営力向上の内容に関する事項」としてまとめたものです。
ひらたくいえば、「この業種では、経営力を向上させるには、この指標で目標を立てたらいいよ、目標達成にはこんなことが必要なんじゃないの」とアドバイスしてくれているわけです。
役所用語なので、わかりにくいですが。
ともあれ、上記に各事業や分野ごとの指針のリンクを貼っておいたので、該当するものがあれば、指針の名称を記入し、PDFをダウンロードしてください。
また、超概略で、「うちは何すればいいの?」を知りたい場合は、各事業分野1枚に要約した資料があるので、こちらで自社の分野を見ておくとよいでしょう。
該当する指針がない場合は、ここは空欄です。
実施時期
計画開始の月から起算して、
- 3 年(36 か月)
- 4 年(48 か月)
- 5 年(60 か月)
のいずれかの期間を設定して平成 ○○ 年 ○月~平成 ○○年○○月と記載します。平成の元号は、平成31年4月まで、5月からは新しい元号になりますが、決まるまでは平成で書くしかないですね。
もしかしたら、2.5年(30か月)にしたいとか、10年(120か月)の長期計画を立てるんだ、とかの希望があるかもしれませんが、こういう指定なので、3年・4年・5年のいずれかと割り切ってください。
それ以外で申請しても、「直してください」と返ってくるのはわかりきっているので。
なお、注意しなければならないのは、経営力向上設備(後述)の導入に係る税制優遇措置等を受けようとする場合、この実施時期の期間内に行わなければならない、という点です。
また、計画の開始時期を、申請日よりも前にさかのぼることもできるのですが、2ヶ月までが限度です。
たとえば、2018年2月28日が申請日なら、開始時期はさかのぼっても2018年1月まで、ということですね。
現状認識
この辺から、やっと計画の中身の話になります。
「4.現状認識」の項に記載するのは、以下の3点です。
- 自社の事業概要
- 自社の商品・サービスが対象とする顧客・市場の動向、競合の動向
- 自社の経営状況
自社の事業概要
当社は何業なのかを簡潔に記述します。どのくらいを簡潔と言うのかといえば、このくらい。
- (製造業記載例)金属板の板金加工業及びそれを用いた機械装置組み立てを行う。事業分野別指針における規模は中規模に該当。
- (医療業記載例)○○病院(以下「当院」という。)を平成○○年に開設し、○○科・○○科・○○科の診療を行う。病床数は○○床。
- (建設業記載例)主として砂防や治山施設等の土木工事を行う。事業分野別指針における規模は中規模に該当。
- (貨物運送業記載例)一般貨物自動車運送事業を経営しており、地場スーパーマーケット X 社を主たる荷主として、食品・日用品等を倉庫から各店舗へ輸送している。また、荷量の季節波動によって生じた空車を随時活用し、スポット契約の輸送を不定期に受託している。事業分野別指針における中規模事業者に該当する。
- (電気通信業記載例)○個人及び法人向けにインターネット接続サービスを提供する他、電子メールサービス、セキュリティサービス、クラウドサービス等を提供している。
上から、経済産業省、厚生労働省、国土交通省(建設)、国土交通省(運輸)、総務省の主管です。
【参照用】経営力向上計画認定申請書では、「自社の事業内容について、概要を記載すること」というガイドが示されているのみで、主管の省庁によって、書きぶりも分量も差があることがわかります。
なので、必ずこう書かなければならない、という厳密な決まりはないということです。
自社と同じ業種の記載例があるなら、それにならって書いておけば無難でしょう。
なお、事業分野別指針で、事業分野・事業規模によって、実施事項の項目数や内容に条件がつけられている場合は、「事業分野別指針における規模は○規模に該当」と記載してください。
自社の商品・サービスが対象とする顧客・市場の動向、競合の動向
このタイトルづけから、わかる人はわかると思いますが、要するに、3C分析をして書いてください、というのがこの項の趣旨です。
3Cというのは、
- Customer:市場・顧客
- Competitor:競合
- Company:自社
です。
【参照用】経営力向上計画認定申請書では、次のようなガイドになっています。
自社の商品・サービスについて、顧客の数やリピート率、主力取引先企業の推移、市場の規模やシェア、工業他社との比較等について分析し、自社の強み及び弱みを記載すること
旅館業(厚生労働省主管)の記載例を見てみましょう。
まず、顧客・市場の動向から入っています。
当社のある○○県××市は、温泉地として全国的に有名であり、全国各地・諸外国から毎年多くの観光者が来訪している。○○県の延べ宿泊者数は増加傾向にあり、外国人宿泊客も増加している。
次に、自社の状況です。強みと弱みの自己分析をしていますね。
当社は、創業以来、数十年来行っていたおもてなしの心を大切にした丁寧な接客と、地場の特産品を活用した料理が強みである。一方、設備投資が行えていないために建物・設備が老朽化しているため、修繕費が多くかかり利益率が低下していることが弱みである。
で、最後に競合の動向です。
競合は、全国展開しているビジネスホテルチェーンである「○○ホテル」である。当ホテルは当社に比べて安価であり、かつ外国語対応可能なスタッフが常駐しているため多くの外国人観光客から支持を受けており、地場の旅館は外国人観光客の増加幅に比べ、宿泊客を増やすことができていない。
必ずこの順番でなければならないということはありませんが、3Cの要素について漏れなく触れて、自社の強み・弱みを明確化しておきましょう。
もう1つ重要なのは、この現状認識を踏まえて、
- だから、「6 経営力向上の内容」で書く取組が必要なんです
- だから、「7 経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法」で書く資金が必要なんです
- だから、「8 経営力向上設備等の種類」で書く設備等が必要なんです
とつながっていく論理構成となるように書くことです。
あらためて文章にするとなると、頭を抱えて筆が進まなくなってしまうという方もいらっしゃるかもしれません。
そういう場合は、いきなり文章にするのではなく、どなたか信頼できる方に自社の現状、問題点、ここが課題なんだよ、という話をしてみることをオススメします。
話をすることができたということは、考えが言葉になって口から出たということです。あとは、それを文字にして定着させれば文章になるのです。
人に話すことで、自分の思考が整理される効果もありますね。
自社の経営状況
現状認識の最後は、自社の経営状況です。
【参照用】経営力向上計画認定申請書では、次のようなガイドになっています。
自社の財務状況について、売上高増加率、営業利益率、労働生産性、EBITDA有利子負債倍率、営業運転資本回転期間、自己資本比率その他の財務情報の数値を参考に分析し、改善すべき項目等について記載すること
売上高増加率以下、6種類の指標が例示されています。
実はこれらの指標は、中小企業庁の作成した企業分析ツールである「ローカルベンチマーク(通称ロカベン)」で評価する6種類の指標です。
ロカベンの正式リリースが2016年3月、経営力向上計画の認定制度の開始が2016年7月で、関連性が深いので、関連付けて活用してほしい、という政策的意図ですね(2016年5月「ローカルベンチマーク活用行動計画」に経営力向上計画の記述がみられます)。ロカベンについてはまた、別稿で触れる機会があると思いますので、この程度にとどめておきます。
ここで自社の経営状況の分析に用いるる指標は、目標数値として設定する指標、たとえば労働生産性と一致しているのが合理的でしょう。
では、製造業(経済産業省主管)の記載例を見てみましょう。
まず最初に、売上と営業利益について触れています。今後3~5年の計画を立てるので、過去3期分の損益計算書を見て書けばよいでしょう。
売上は 27 年度 5,300,000 千円、28 年度 5,420,000 千円と増加している一方で営業利益については 27 年度 85,000 千円、28 年度 80,000 千円と減少している。
次に、増収減益となっている原因の分析です。3点ありますが、これは後の「6 経営力向上の内容」で、設備投資、若手社員の採用や教育などを記載することと対応しているのです。
原因として、①設備更新をしておらず、一部工程について主要取引先の要望に対応しきれていないこと、②熟練工員が定年退職を迎えており適切な工程設計ができる人員が減っていること、③多台持ちができる若手工員が少なく多台持ち工程を熟練工に頼らざるを得ないこと等の理由があげられる。
最後に、労働生産性の数字が出てきますが、この労働生産性を高めることこそが経営力向上の本質ということで、経営力向上計画を主管とする経済産業省の、「このように考えてほしい」という理想が透けて見えるような記載例です。
以上から、労働生産性((営業利益+人件費+減価償却費)/労働者数)が低くなっていると考えられる。
もう1つ、介護業(厚生労働省主管)の記載例を見てみましょう。
まず最初に、売上と営業利益について触れ、次に原因分析しているのは製造業と同じですが、最後に、問題を解決・解消するための課題を挙げる形で締めくくっていますね。
売上は 27 年度 4,500 千円、28 年度 5,000 千円と増加傾向にある一方、営業利益は 27 年度 3,000 千円、28 年度 1,500 千円と減少している。
原因は新規事業のための設備投資を積極的に行ったこと、離職者が前年よりも増加したことであると考えられる。
今後、人事制度の整備や IT 等の導入による業務負担の軽減、を行うことにより、就業環境の改善と業務効率化を行い、離職率の低下を図る。
というわけで、ここもこう書くのが正解、とか、間違い、ということはないのですが、
- 過去3期程度の損益等の経営指標の推移
- 売上や利益が減少傾向なら、その原因は何かの分析
- 売上や利益が増加傾向なら、さらに成長発展していくための機会は何かの着眼点
- 問題点の解決・解消または成長発展に向けての課題
といった項目建てで、経営者としての優先課題を明確化する記述をするのがよいでしょう。
経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
「5.経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標」の項に記載するのは、以下の4点です。
- 指標の種類
- A現状(数値)
- B計画終了時の目標(数値)
- 伸び率((B-A)/A)(%)
指標の種類の選定と目標値の基準
この項、現状値を計算することも、3~5年後の目標値を設定することも、作業としては必ずしも難しくないのですが、経営力向上計画が何を目指しているのか、背景解説も交えていきたいと思います。
「中小企業等の経営強化に関する基本方針」という文書において、経営力向上は、「経営資源を事業活動において十分効果的に活用すること」と定義されています。
具体的には、
- 事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成
- 財務内容の分析の結果の活用
- 商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用
- 経営能率の向上のための情報システムの構築
等を行うこと、というのです。
で、そういう取組を行った結果、経営力をどれだけ向上させたいかの数値目標を立てる必要があります。
「基本方針」には、このように記載されています。
計画期間を3年から5年とし、労働生産性を計画認定の判断基準とする。
原則、5年間の計画の場合、計画期間である5年後までの労働生産性の目標伸び率が2%以上とするが、業種・事業規模等を勘案して弾力的に目標を設定することができることとする。
で、「基本方針」でいう労働生産性とは、次のように定義されています。
労働生産性とは、営業利益、人件費及び減価償却費の合計を、労働投入量(労働者数又は労働者数×一人当たり年間就業時間)で除したものとする。
計算式にすると、
1人当たり生産性:(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働者数
時間当たり生産性:(営業利益+人件費+減価償却費)÷(労働者数×一人当たり年間就業時間)※
※要するに、総労働時間
ということになりますね。
- 営業利益は、本業の稼ぎですから、会社のキャッシュをどれだけ増やしたか(稼ぐ力)をストレートに表します。
- 減価償却費は、実際には支払っていない費用なので(ということについては別に解説しますが)、会社のキャッシュの温存につながります。設備投資等を行えば増加しますから、ここには経営者の成長意欲が間接的に反映される、とも解釈できます。
- 人件費は、会社のキャッシュを増やすわけではありませんが、家計のキャッシュをどれだけ増やしたか(養う力)、ということになります。
この合計を労働者数や総労働時間で割るということは、1人当たり、どれだけ会社と家計のキャッシュを増やしたか、ということに政府の関心があり、その効率性を労働生産性と呼んでいるわけです。
さて、「経営力向上の目標」は、「事業分野別指針」が策定されていない事業分野については、「基本方針」にもとづいて設定することになります。
計画期間が3年の場合は、3年後までに1%以上
計画期間が4年の場合は、4年後までに1.5%以上
計画期間が5年の場合は、5年後までに2%以上
「事業分野別指針」が策定されていない事業分野については、各指針に記載されている指標により目標を設定します。
事業分野 | 経営指標・目標値 |
基本方針 | 労働生産性:1人当たりor時間当たり=(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量(労働者数or(労働者数×1人当たり年間就業時間)) →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
製造業 卸・小売業 石油卸売業・燃料小売業 | ①労働生産性:1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ②売上高経常利益率=経常利益÷売上高 ※経常利益=営業利益-資金調達に係る営業外の費用(支払利息、新株発行費等)とし、本業と関連性の低い営業外の収益(有価証券売却益、賃料収入等)は含まない →3年:+3.0%以上、4年:+4.0%以上、5年:+5.0%以上 ③付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費 →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
外食・中食 旅館業 | 労働生産性:時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
医療 | ①職員の離職率、②勤続年数、③定着率、④利用者満足度、⑤ICTの活用等によるコストの削減、⑥その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標 |
保育 | ①職員の勤続年数、②離職率、③その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標 |
介護 | ①介護職員の勤続年数、②離職率、③入職率、④顧客満足度、⑤その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標 |
障害福祉 | ①障害福祉職員の勤続年数、②離職率、③入職率、④顧客満足度、⑤その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標 |
貨物自動車運送業 | ①運転者の平均労働時間 →3年:▲2.0%以上、4年:▲2.5%以上、5年:▲3.0%以上 ②積載効率、③実車率、④実働率 →3年:+2.0%以上、4年:+2.5%以上、5年:+3.0%以上 |
船舶産業 | 労働生産性:労働投入量当たりの付加価値額or労働投入量当たりの生産量(総トン数) →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
自動車整備 | ①労働生産性:1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ②点検整備入庫台数増加率 →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ③業務関連資格等の取得 →整備要員数の1/4以上の者が自動車整備業分野における認定事業分野別経営力向上推進機関が推奨する業務関連資格の取得or研修受講 |
建設業 | ①労働生産性・基本:1人当たりor時間当たり ②労働生産性・推奨=(完成工事総利益+完成工事原価のうち労務費+完成工事原価のうち外注費)÷年間延人工数 ③労働生産性・簡易=(完成工事総利益+完成工事原価のうち労務費)÷直庸技能労働者数 →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
有線テレビジョン放送業 | ①労働生産性:1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ②有線テレビジョン放送ネットワークの光回線化増加率:光ファイバの幹線路距離、FTTH方式の引込端子数or加入世帯数 →3年:+2.0%以上、4年:+3.5%以上、5年:+5.0%以上 |
電気通信 | ①労働生産性(減価償却費の除外可):1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ②売上高経常利益率 →3年:+3.0%以上、4年:+4.0%以上、5年:+5.0%以上 ③IPv6への対応 →計画期間の終了時までに全てのサービスがIPv6に対応 |
不動産業 | 労働生産性(減価償却費の除外可):1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 |
地上基幹放送分野 | ①労働生産性(減価償却費の除外可):1人当たりor時間当たり →3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上 ②売上高経常利益率 →3年:+3.0%以上、4年:+4.0%以上、5年:+5.0%以上 |
記載方法
具体的に、経営力向上計画にはどう書けばいいのでしょうか?
上の表の基本方針または事業分野別指針に記載されている指標から1つ選び、下の表に記入していけばOKです。
- 「指標の種類」を決めて記入する
- 「A現状(数値)」は、直近の決算書(または関連の社内資料)から数字を拾ってきて計算します。
- 「伸び率」を、規定以上(労働生産性なら3年:+1.0%以上、4年:+1.5%以上、5年:+2.0%以上)になるように決める。
- 「B計画終了後の目標」=「A現状(数値)」×「100+伸び率」(%)で計算し、記入する。
指標の種類 | A現状(数値) | B 計画終了時の目標 (数値) | 伸び率((B-A)/A) (%) |
例)労働生産性 | ****千円 | ****千円 | *.*% |
経営力向上の内容
「6.経営力向上の内容」の項に記載するのは、以下の4点です。
- 番号(ア、イ、ウ・・・)
- 事業分野別指針の該当箇所の記号
- 実施事項の内容
- 新事業活動に該否(該当する場合は○を記入)
記載方法
事業分野別指針の該当箇所 | 実施事項 (具体的な取組を記載) | 新事業活動への該非 (該当する場合は○) | |
ア | 「2事業分野と事業分野別指針名」の項で、指針名を記載した場合、その指針の「経営力向上の内容に関する具体的事項」を参照して番号を記載する | 具体的な取組内容を記載する とくに、資金調達や設備投資に関係する内容は、必ず具体的に記載する | 実施事項の内容が、以下のいずれかに該当する場合のみ「○」をつける
※「役務」はサービスのこと |
イ | イ(1)、ハ(2)など | ||
ウ | |||
・・・ |
「実施事項」が経営力向上の核心内容となります。
また、その取組が新事業活動に該当するかどうかですが、これは、「経営革新計画」における新事業活動の定義をそのまま準用しています。
したがって、ここに「○」がつくようなら、経営革新計画の承認に並行して取り組むことも検討するとよいでしょう。
ダウンロードした申請書様式(ワード)には、デフォルトで、実施事項3項目に対応するア、イ、ウの3行が用意されていますが、それより多くなってもかまいません。項目数を増やす場合は、行を追加して、エ、オ、カ、・・・と続けていきます。
記載項目数
事業分野別指針で、事業分野・事業規模によって、実施事項の項目数や内容に条件がつけられている場合は、最低限の項目数を記載する必要があります。
この場合、少し話が戻りますが、現状認識の「①自社の事業概要」の項に、「事業分野別指針における規模は○規模に該当」と記載してあるか、ここで再度チェックしてください。
たとえば製造業の場合は、次のようになっています。小規模なら、最低1項目だけ記載すればOKということになります。
規模 | 常時使用する 従業員の数 | 実施事項の規定 |
小規模 | 20人未満 |
|
中規模 | 20人以上 300人未満 |
|
大規模 | 300人以上 2000人以下 |
|
ちなみに、中小企業基本法において、20人というのは小規模企業かどうかの境目、300人というのは中小企業と大企業の境目となる基準値です。
記載内容
さて、経営者の頭の中で問題点や課題が明らかであれば、「実施事項」の内容が先に決まっているはずなので、それに対応しそうな項目を事業分野別指針から探し出して当てはめることになります。
逆に、問題点や課題は何だろう?と考える必要があるのであれば、事業分野別の記載例や指針を読むことからヒントを得ることもできます。
事業分野別指針へのリンクは、前の方に載せておきました。ここには、事業分野別の記載例へのリンクを載せておきますので参照してください。
製造業
卸・小売業(平成29年5月10日更新)
外食・中食(平成29年5月10日更新)
旅館
医療(平成29年5月16日更新)
保育
介護
障害福祉(平成29年5月16日更新)
貨物自動車運送業(平成29年5月10日更新)
自動車整備(平成29年6月16日更新)
船舶産業(平成29年5月16日更新)
建設業(平成29年5月23日更新)
有線テレビジョン放送業
電気通信(平成29年5月16日更新)
不動産業(平成29年6月21日更新)
地上基幹放送分野(平成29年8月29日更新)
石油卸売業・燃料小売業(平成29年12月21日)
事後報告
なお、「実施期間終了時に、記載された実施事項の実施状況及び目標の達成状況の報告を求める場合がある」とされています。
経営力向上計画の制度開始が2016年7月で、少なくとも3年以上の計画期間ですから、さかのぼって2016年7月を開始時期として申請した場合でも、終了は2019年6月です。
これより早く実施期間が終了することはありませんから、当分の間は、気にしなくてよいでしょう。
経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
「7.経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法」の項に記載するのは、以下の4点です。
- 実施事項の番号(ア、イ、ウ・・・)
- 使途・用途
- 資金調達方法
- 金額(千円)
必要な資金の額
ここまで来ればもう一息です。
前項に記載した経営力向上の「実施事項」を実行するのに、どのくらいの費用がかかるか見積もります。
経営者や社員の創意工夫による改善であれば、人件費に織り込み済みなので、資金調達には直接関係しないかもしれません。
しかし、人材の採用・育成を行っていくとなると、採用費・給与・法定福利費・福利厚生費・教育研修費などの増加が見込まれます。
設備の更新や新規導入を行うとなれば、機械装置の購入費がかかります。
新規店舗の出店なら家賃、改装(リフォーム)なら工事費、集客のために広告宣伝費。
業務管理や顧客管理をIT化するなら、ソフトウェアの購入やシステム導入・開発費。
・・・といった具合ですね。
記載フォーマット
実施事項 | 使途・用途 | 資金調達方法 | 金額(千円) |
ア | *** | 自己資金 | *** |
ウ | *** | 融資 | *** |
エ | *** | 補助金 | *** |
実施事項のア、イ、ウ・・・の記号は、前の項で記載した実施事項のア、イ、ウ・・・と対応させる必要があります。
使途・用途は、適宜簡潔に記載しますが、税制優遇措置を受けようとする機械装置等がある場合には、「経営力向上設備等購入費用」と明記しておきましょう。
資金調達方法
資金調達方法は、自己資金、融資、補助金といったところになります。
注意点としては、同一の設備等であっても、資金調達方法が、自己資金と融資、自己資金と補助金、融資と補助金、自己資金と融資と補助金、といった組み合わせになる場合、資金調達方法ごとに行を分けてください。
例えば1000万円の機械装置を購入するとして、半分の500万円を自己資金で、残りの半分の500万円を融資で調達する場合、次のように記載することになります。
実施事項 | 使途・用途 | 資金調達方法 | 金額(千円) |
ア | ***の購入 | 自己資金 | 5000 |
ア | ***の購入 | 融資 | 5000 |
なお、補助金については不採択の場合を見込んで、自己資金または融資による資金調達を見込んで記載しておいた方が無難です。
見積金額の精度については、概算でかまいませんが、融資については、実際に経営力向上計画が認定された後、金融機関と融資交渉に臨む際には、ここに記載された金額が前提となります。
無理に大きく見積もる必要もないのですが、過小にする必要もなく、融資による資金調達が想定されるなら、しっかり書き込んでおきましょう。
実際、「ここに書いてある金額がすべてですから」という融資担当者の発言に接したこともあります。
計画申請時と、実際の実行時で、導入する設備の種類や数量、調達先、金額などが変わるのは普通です。
実行の前に、再度精度の高い見積をして、必要があれば変更申請を行うことで対応すれば問題ありません。
経営力向上設備等の種類
「8.経営力向上設備等の種類」の項には3つの表があります。
- 導入する設備等の番号ごと(1,2,3・・・)の概要を記入する表
- 導入する設備等の番号ごと(1,2,3・・・)の種類、単価、証明書番号等を記入する表
- 設備等の種類別の導入数量、金額を記入する表
「経営力向上計画策定の手引き」には、「税制措置を活用する場合、この欄に記載します」とあるので、逆にいうと、税制措置を活用しない場合は、この欄の記入は不要ということになります。
以下、税制措置を活用する前提です。
導入する設備等の概要
まず、導入する設備等ごとに1,2,3・・・と番号を振ります。ア、イ、ウ・・・の「実施事項」との対応付けが必要です。
「取得年月」何年何月に導入する予定かを記入しますが、書いた通りの年月に導入しなければならない、ということはありません。あくまで予定ということで記入してください。
ただし、その次の「利用を想定している支援措置」と関係してきますが、本稿作成時点では、税制優遇措置の適用は平成31(2019)年3月31日までに導入される設備となっています。
計画期間は、3~5年で、それより長いのですが、どの設備等をどのタイミングで導入するかは、経営力向上計画の認定を受けるメリットに大きくかかわってきますのでご注意ください。
「支援措置」は、固・国A・国Bとありますが、それぞれ、次のとおりです。
- 固:導入する設備等に係る固定資産税の軽減(3年間1/2)
- 国A(国税A類型):導入する設備等がA類型(生産性向上設備)である場合、即時償却または法人税軽減
- 国B(国税B類型):導入する設備等がB類型(収益力強化設備)である場合、即時償却または法人税軽減
各支援措置については、項を改めて解説します。
「設備等の名称」は、○○装置、○○機械など、一般的にそれが何の設備等であるかがわかる名称、「型式」は、その設備等の型式番号です。
金額も記載するので、概算でも見積をとっておくとよいでしょう。
「所在地」は、設備等を設置する事業上の所在地です。固定資産税は地方税で、市町村が課税主体となるので、市町村まで書きましょう。
同じ型式の設備等でも、「取得年月」や「所在地」が違う場合は、行を分けて記入します。
実施事項 | 取得年月 | 利用を想定して いる支援措置 | 設備等の名称/型式 | 所在地 | |
1 | ア | H**.** | 固・国A・国B | *****/***** | **県**市 |
2 | ウ | H**.** | 固・国A・国B | *****/***** | **県**市 |
3 | ウ | H**.** | 固・国A・国B | *****/***** | **県**市 |
4 | エ | H**.** | 固・国A・国B | *****/***** | **県**市 |
5 | エ | H**.** | 固・国A・国B | *****/***** | **県**市 |
導入する設備等の金額
次の表は、本当は横長で最初の表の右に続くものが、A4用紙の幅が足りないので、折り返して下に来ている、と思ってください。
当然、行数と左端の番号は一致しなければおかしいですね。
「設備等の種類」は、減価償却資産としての種類です。
- 機械装置
- 器具備品
- 工具
- 建物附属設備
- ソフトウェア
のいずれかとなります。
「単価」と「数量」、その掛け算で「金額」が出てきます。
最後の「証明書等の番号等」とは、
- A類型(生産性向上設備)ならば、工業会発行の証明書の整理番号
- B類型(収益力強化設備)ならば、経済産業局発行の確認書の文書番号
です。それぞれ、証明書や確認書の写しも添付する必要があるので、忘れないようにしましょう。
なお、「単価」の単位は、証明書が発行されている単位ということになります。機械「単体」のこともあれば、オプション等を含めた「一式」のこともあります。
下の表は、説明の都合上、設備等の種類(5種類)に対応して5行にしてありますが、機械装置1台のみなら1行でかまいません。
設備等の種類 | 単価 | 数量 | 金額(千円) | 証明書等の番号等 | |
1 | 機械装置 | ****千円 | ** | **** | **** |
2 | 器具備品 | ****千円 | ** | **** | **** |
3 | 工具 | ****千円 | ** | **** | **** |
4 | 建物附属設備 | ****千円 | ** | **** | **** |
5 | ソフトウェア | ****千円 | ** | **** | **** |
設備等の種類別のまとめ表
最後に、設備等の減価償却資産としての種類ごとに、数量と金額を積算します。
この表は、設備等の種類(5種類)に対応して5行です。対応する種類の設備等の取得がなければ、その行には数量0、金額0を記入することになります。
合計の金額を記入する欄が、この表にしかありませんが、念のため、金額を記載している他の表と一致するか検算しましょう。
設備等の種類 | 数量 | 金額(千円) | |
設備等の種類別小計 | 機械装置 | ** | **** |
器具備品 | ** | **** | |
工具 | ** | **** | |
建物附属設備 | ** | **** | |
ソフトウェア | ** | **** | |
合計 | ** | **** |
まとめ
経営力向上計画の分量自体は、たった用紙2~3枚ですが、たかが2枚、されど2枚!各項目をしっかり書き上げるには、それなりの予備知識や労力が必要です。
計画作成に慣れない方にとっては、ハードルが高いと感じられるかもしれませんが、本稿を参考にがんばってみてください!
どうしてもムリ、という場合は認定支援機関に相談されるとよいでしょう。
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