たった2枚の書類で大きな資金繰りメリットが得られる「経営力向上計画」
この記事の目次
経営力向上計画とは
中小企業の経営力向上支援策へのパスポート
中小企業・小規模事業者や中堅企業は、経営力向上のための人材育成や財務管理、設備投資などの取組を記載した「経営力向上計画」を事業所管大臣に申請し、認定されることにより固定資産税の軽減措置や各種金融支援が受けられます。
申請書類は実質2枚のみであり、郵送による申請が可能です。
と中小企業庁のHPに書いてあるくらいで、日頃、経営状況と経営数値が頭に入っていれば、すぐに作成できる割にはメリットが大きい制度です。
2016年7月1日、中小企業等経営強化法の施行とともにスタートし、2017年10月31日時点で37,325件の経営力向上計画が認定されています。ざっと、日本の中小企業の1%、100社に1社しか認定を受けていないのは、とってももったいない話です。
経営力向上計画の認定によって受けられるメリット
経営力向上計画の認定によって受けられるメリットは、大きく3つです。
1番目に、固定資産の取得に係る税制上の優遇措置が受けられること。一定金額以上の固定資産を取得する予定があるなら、認定を受けておいて損はありません。
2番目に、資金調達面での優遇措置が受けられること。設備資金や運転資金の調達を見越して、計画に書き込んでおくことで低利融資や保証枠の拡大などの支援措置が受けられます。
3番目に、国の補助金を申請する際の加点要素となります。平成28年度補正予算のものづくり補助金、IT導入補助金から、この加点が行われるようになりました。29年度補正以降もおそらく同様でしょう。補助金を受けて取得した固定資産について、1番目の税制上の優遇措置との併用ができるので、採択されれば資金繰り上、大きなメリットとなります。
3番目のメリットは個々の補助金の公募要領で確認することとなるので、以下、1番目の税制上の優遇措置と、2番目の資金調達面での優遇措置について、かいつまんで解説していきます。
「申請書類は実質2枚」で、そこだけ切り取れば簡単に見えるかもしれませんが、制度の全体像を理解し、自社でどう活用するかまでをイメージして取り組むのは、必ずしも容易ではありません。
税制上の優遇措置
固定資産税が3年間1/2に減額
①中小事業者等が、②適用期間内に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき③一定の設備を新規取得した場合、固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減されます。ざっくり言って、3年間で取得価額の1.4%相当額の納税額が軽減されます。
①中小企業者等の定義は、下記のとおりで、資本金1億円超・従業員1000人超でなければ、基本的には対象になります。
- 資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人
- 資本金もしくは出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
②適用期間は、「平成29年4月1日から平成31年3月31日までの期間」で、要するに、平成30年度中に設備投資する予定があるなら、経営力向上計画の認定をあらかじめ受けておけばよい、ということになります。
諸事情により計画に記載した設備投資をとりやめてもお咎めはありませんし、また、導入設備の追加や変更があれば、変更申請することもできます。
即時償却または10%の法人税額控除
固定資産税の優遇措置よりも大きなメリットがあるのがこちらです。対象要件は、基本的には固定資産剤の場合と同様と考えて差し支えありません。
即時償却とは、機械装置等を取得した場合は通常、耐用年数に従って、毎年少しずつ減価償却していくところ、取得した年度に全額減価償却できてしまう制度です。費用計上が大きくなるので、その分だけ営業利益の圧縮につながり、最終的には法人税の納税額の圧縮につながります。
仮に取得価額が1000万円とすれば、その全額が当年度の損益計算書に減価償却費として費用計上され、1000万円の営業利益に対する法人税(ざっくり30%)を相殺するので、その分だけのキャッシュが会社に残り、結果として3割補助を受けたのと同じ効果が得られます。
一方、10%%(資本金3000万円超1億円以下の法人は7%)の法人税額控除とは、上の例と同様、取得価額が1000万円とすれば、その10%、すなわち100万円が本来の法人税額から控除(要するに差っ引き)されるので、その分だけキャッシュが会社に残ります。純粋に納税額の削減になります。
100万円の法人税を納税するのに、いったいいくらの売上が必要か、自社の損益構造から逆算してみると、その効果の大きさがわかります。
仮に営業利益率5%とすると、100万円÷0.3(税率)÷0.05(利益率)=6667万円の売上増!に相当しますね。
金融支援措置
経営力向上計画が認定された事業者は、政策金融機関の低利融資、民間金融機関の融資に対する通常とは別枠での信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援などを受けることができます。ただし、それぞれ経営力向上計画の認定を受けさえすれば融資が受けられる、といわけではなく、その機会が得られる、という点に留意しておく必要があります。
低利融資
①日本政策金融公庫による低利融資:経営力向上計画の認定を受けた事業者が行う設備投資に必要な資金について、低利融資を受ける事ができます。
②商工中金による低利融資:経営力向上計画を策定している事業者に対し、商工中金の独自の融資制度により、低利融資を受ける事ができます。
保証枠拡大(中小企業信用保険法の特例)
中小企業者は、経営力向上計画に記載された取組のうち、新商品・新サービスなど「自社にとって新しい取組」(新事業活動)に限り、その実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
具体的には、通常保証枠と同額の別枠(普通保険2億円+別枠2億円)、新事業開拓保険(2億円→3億円に拡大)といった特例措置が受けられます。すでに保証枠限度近くまで借入があるものの、さらに新事業を展開するのに追加資金調達が必要な場合、この特例が効果を発揮します。
経営力向上計画の手続きのポイント
計画作成から認定まで
計画の内容は、大きく以下の項目にわかれます。
①自社の概要と、強み・弱み、経営状況についての分析等
②労働生産性などの生産性向上の目標(業種ごとに推奨の指標があります)
③目標を達成するために必要な人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や、設備投資等の取組
④取組を実行するのに必要な資金額と想定する調達方法(自己資金、融資、補助金等)
⑤税制優遇を受けようとする導入設備等(経営力向上設備等)がある場合、その概要(設備等の種類、型式、価格等)
これを所定の様式にもとづいて最少2枚の計画書にまとめればOKです。自力で作成する場合、業種別の記載例を参考にするとよいでしょう。
提出先は、自社の事業を「主管」する大臣ということで、たとえば製造業なら経済産業大臣(実際には、自社のエリアを管轄する経済産業局)、建設業なら国土国通大臣(実際には、自社のエリアを管轄する地域整備局)となります。
事前申請が基本で、申請書受理後の標準処理期間は30日間です。例外として、経営力向上設備の取得後60日以内に限り事後申請も可能です。
設備投資を行うならA類型かB類型か
税制優遇を受けようとする導入設備等を「経営力向上設備等」といい、
- A類型(生産性向上設備)の場合:「工業会等による証明書」
- B類型(収益力強化設備)の場合:「経済産業局による確認書」
を事前に取得し、計画申請時に添付することが必要となります。
A類型の生産性向上設備とは、「生産効率、精度、エネルギー効率等が旧モデルと比較して年平均1%以上向上しており、設備区分毎に定められた販売開始時期要件を満たす設備」であるとして、工業会が証明書を発行します。
設備等の販売店やメーカーが、この手続きを知っていればよいのですが、ほとんどの場合、知識も経験もないので、残念なことですが「わからない」「やったことがない」「できない」といったネガティブ対応に合ってもおかしくありません。
そのときは、諦めずに「れっきとした国の制度だから、中小企業庁のこのページ読んで、証明書を入手してください」と、再度依頼しましょう。
B類型の収益力強化設備とは、「年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることについて、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された設備」です。
A類型の証明書が入手できない場合でも、B類型の適用は可能です。ただし、事前に「年平均の投資利益率が5%以上となる見込み」についてシミュレーションを作成し、経済産業局から確認書をもらった上で、計画申請時に添付する必要があるので、A類型よりも段取りが複雑になります。また、B類型の場合、固定資産税の特例は適用されません。
まとめ
最小でA4用紙たった2枚の計画書が、国の認定を受けることで、税額控除や融資の機会をもたらしてくれます。ただ、計画書を書くこと自体よりも、自社の経営計画の中でどう活用し、どれだけのメリットがいつ得られるかをシミュレーションすることが大変です。
自力ではちょっと無理だな、という場合は認定支援機関にご相談することをオススメします。
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